久須美酒造(酒蔵企業分析)
亀の尾の復活から、米と水を未来へつなぐ「清泉」
所在地:新潟県長岡市小島谷1537-2
代表銘柄:清泉〈きよいずみ〉
象徴商品:亀の翁〈かめのお〉
情報確認日:2026年10月18日
本稿は、蔵元公開情報、酒造組合、行政資料、取扱店情報などに基づく企業分析です。非公開の経営数値は推定せず、確認事実と分析上の評価を区別しています。
① 一行定義
亀の尾の復活栽培と自家湧水を基盤に、土地の米・水・人を「清泉」の酒質と文化へ結びつける酒蔵。
② 企業結論・ブランド要約
久須美酒造の企業価値は、原料米を育てるところから、酒の個性と物語をつくってきたことにある。
「清泉」が日常の食卓を、「亀の翁」が原料・技術・熟成による上質な体験を担う。亀の尾の復活は『夏子の酒』のモチーフとなり、商品を超えた文化的な認知にもつながった。
分析上は、農業、伝統技術、地域文化が一つのブランドにまとまった酒蔵と位置づけられる。
③ 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法人名 | 久須美酒造株式会社 |
| 創業 | 1833年〈天保4年〉 |
| 創業者 | 初代・久須美作之助 |
| 代表者 | 久須美賢和〈酒造組合掲載情報〉 |
| 所在地 | 〒949-4511 新潟県長岡市小島谷1537-2 |
| 代表銘柄 | 清泉 |
| 主な事業 | 日本酒の製造・販売 |
| 電話/FAX | 0258-74-3101/0258-74-3644 |
| 情報発信先 | 久須美酒造公式Facebook〈酒造組合掲載〉 |
| 見学・試飲 | 実施していない |
資本金、最新の従業員数、生産数量、売上高、利益は、今回確認した公式公開情報では確定できない。
④ 歴史・企業形成
1833年、現在の長岡市和島地域で創業。企業史の大きな転機は、6代目・久須美記廸氏による亀の尾の復活である。
1980年に約1,500粒の種籾を入手し、蔵人・農家と増殖栽培。1983年冬に純米大吟醸「亀の翁」が誕生した。
酒米の探索と栽培を、商品づくりの出発点に据えたことが、現在のブランド形成につながっている。
⑤ ブランド構造
「清泉」を中心に、原料・造り手・熟成・季節による違いを持たせる構造である。
| 商品・シリーズ | 主な役割 |
|---|---|
| 清泉の定番商品 | 日常の晩酌・食中酒 |
| 亀の翁 | 亀の尾復活の象徴となる純米大吟醸 |
| 亀の翁の熟成商品 | 時間による味わいの深化 |
| 七代目 | 蔵元の酒質思想と世代継承 |
| 夏子物語 | 文化的な物語と純米吟醸の接点 |
| 亀の王などの季節商品 | 生酒・生貯蔵酒の楽しみ |
「亀の翁」「亀の尾」「亀の王」は別の商品名であり、混同できない。
⑥ 水・風土・地域テロワール
蔵の自家湧水と、その水を育む裏山が酒造りの基盤である。
新潟県は、久須美酒造の邸内にある「酒屋の清水」を県の名水として紹介。蔵元の説明でも、裏山から湧く清水を仕込みに使ってきたことが確認できる。
地域性の強みは、仕込み水を抽象的な産地イメージではなく、具体的な水源と土地の関係で語れる点にある。
⑦ 独自技術・酒造技術
原料処理から麹・酒母づくりまで、人が状態を見ながら進める伝統技術を重視する。
| 工程 | 確認できる取り組み |
|---|---|
| 精米 | 普通酒を含めた全量自家精米 |
| 洗米 | 米の状態に配慮した手洗い |
| 蒸米・製麹 | 甑、麹蓋を用いた工程 |
| 酒母 | 汲み掛けの手法を活用 |
| 貯蔵 | 商品に応じた低温熟成 |
技術上の特徴は、手仕事そのものに加え、原料と発酵の状態を細かく判断することにある。独自特許や専用酵母の保有は未確認。
⑧ 原料・酒米戦略
亀の尾の復活と継続栽培が、原料戦略の中心的な資産である。
酒造組合の記事では、蔵人を中心とする「亀の尾生産組合」による酒米栽培を紹介。商品には五百万石、越淡麗、山田錦なども用い、酒質に応じて使い分けている。
亀の尾の復活・栽培実績は明確だが、独自新品種の育成や、土壌分析に基づく研究成果は別の評価となる。
⑨ 商品・商品戦略
| 商品 | 特徴・用途 |
|---|---|
| 清泉 純米吟醸 | 定番の食中酒 |
| 清泉 雪 | 普通酒として日常需要に対応 |
| 亀の翁 純米大吟醸 | 亀の尾を使う象徴商品 |
| 亀の翁 三年熟成 | 低温熟成による味わいを楽しむ |
| 七代目 純米吟醸生貯蔵酒 | 柔らかな旨味と爽やかな酸 |
| 夏子物語 純米吟醸 | 物語と酒質を結ぶ商品 |
| 亀の王 しぼりたて | 季節の生酒需要 |
| 亀の尾 大吟醸生貯蔵酒 | 山田錦を用いた商品 |
商品名「亀の尾」が、必ずしも原料米「亀の尾」の使用を意味するわけではない。 また、生貯蔵酒は非加熱の生酒とは異なる。販売時期・仕様・在庫は商品ごとに確認が必要となる。
⑩ 味わい・酒質設計
透明感のある飲み口に、柔らかな旨味と酸を重ねる酒質が中心である。
清泉の純米吟醸は食卓になじむ柔らかさ、亀の翁は穏やかな香りと酸の調和、七代目は爽やかさを持つ。
熟成商品では、低温で時間をかけることによって、丸みや奥行きを楽しむ方向へ展開する。淡麗さだけでなく、飲み進めたときのふくらみも特徴となる。
⑪ 受賞・品質評価
| 区分 | 対象・内容 | 確認状況 |
|---|---|---|
| 国内評価 | 1983年誕生時の亀の翁の鑑評会金賞 | 酒造組合の記事に記載 |
| 海外評価 | 亀の翁 三年熟成 | Wine Advocate関連の2016年年間回顧記事に選出 |
| 評点 | 三年熟成の98点評価 | 正規取扱店の説明で確認 |
年間回顧記事の執筆者はLiwen Hao氏であり、ロバート・パーカー氏本人の審査と断定しない。
98点は過去の特定商品の評価であり、現行品すべての評点ではない。2025~2026年の追加受賞は今回確定できない。
⑫ 地域ブランド
旧和島村・小島谷の水、田んぼ、蔵人の営みがブランドの実体をつくる。
『夏子の酒』との関係は、その実際の米づくり・酒づくりが文化作品へ広がったもの。作品の物語と企業の実績を区別して捉えることで、地域ブランドの独自性が明確になる。
認知の入口が作品であっても、継続購入の理由は清泉の酒質と原料への姿勢にある。
⑬ 人・組織・継承
酒造組合の紹介では、7代目蔵元・久須美賢和氏が代表取締役社長を務める。
継承の特徴は、家業だけでなく、原料米を育てる役割と酒造技術を受け継いでいること。「七代目」や「夏子物語」の表現にも世代継承が反映されている。
後継者の現在の職務、最新の杜氏体制、従業員構成は未確認であり、過去の紹介時の年齢を現在の情報として扱わない。
⑭ 観光・酒蔵ツーリズム
酒造組合の案内では、蔵見学・試飲を実施していない。
『夏子の酒』ゆかりの蔵であっても、自由見学や常設試飲を前提とした観光施設ではない。
観光上の接点は、和島の地域文化に触れることや、取扱店で商品を選ぶことが中心になる。店頭直売の可否・営業時間についても、通常の会社営業とは分けて確認する必要がある。
⑮ 流通・販売
酒販店による説明・販売を重要な接点とする。
正規取扱店には「酒は風の会」の会員店との表示があり、定番から限定品・熟成商品までを扱う。卸事業者にも清泉の掲載が確認できる。
一部の限定商品には販売数量や購入条件があるが、これは販売店ごとの条件。蔵元直販の比率、公式通販の現行運営状況、輸出規模は確定できない。
⑯ 事業構造
公開商品から見ると、日本酒の製造・販売を中心に、定番酒と上位商品を組み合わせる構造である。
定番の清泉は継続購入、亀の翁は上質・贈答需要、季節酒は再購入、熟成商品は付加価値の拡張を担うと考えられる。
熟成には保管期間と在庫資金が必要になる。商品別売上や採算が非公開のため、高価格商品や知名度だけで収益性を判断することはできない。
⑰ 競合比較
以下は市場での位置づけを整理した分析であり、品質・売上の順位ではない。
| 比較対象 | 久須美酒造の特徴 |
|---|---|
| 広域販売を重視する銘柄 | 原料米の復活と地域の具体的な物語 |
| 新商品を頻繁に展開する蔵 | 定番・継承・熟成による価値の積み重ね |
| 高級酒中心のブランド | 日常の清泉から亀の翁まで選択肢を持つ |
| 観光施設型の酒蔵 | 製造と酒販店経由の接点が中心 |
競争力の核は、米の来歴と酒質を結びつけて語れることにある。
⑱ 経営課題・成長余地
⑲ SWOT分析
| 区分 | 分析 |
|---|---|
| 強み | 亀の尾復活の実績、自家湧水、伝統工程、熟成商品、文化的な認知 |
| 弱み | 類似する商品名が分かりにくい。直接体験や現行情報の接点が限定的 |
| 機会 | 酒米への関心、熟成酒の飲み比べ、食との組み合わせ、若い世代への再認知 |
| 脅威 | 栽培の担い手不足、気候・災害リスク、原料・保管・物流費の上昇、技術継承 |
⑳ PEST分析
外部環境が事業へ与え得る影響を整理したもので、業績予測ではない。
| 要因 | 主な影響 |
|---|---|
| P:政策・制度 | 酒類製造・販売、表示、食品衛生、農業関連制度への対応 |
| E:経済 | 原料・資材・保冷物流費と、熟成在庫に必要な資金 |
| S:社会 | 飲酒習慣の変化、産地・原料への関心、文化作品の認知世代の変化 |
| T:技術 | 原料管理、醸造・低温保管、酒販店通販による購入接点の維持 |
㉑ 4P分析
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Product:商品 | 清泉、亀の翁、七代目、夏子物語、季節酒・熟成商品 |
| Price:価格 | 日常用から上質・贈答用まで展開。現行価格は商品・販売店で確認 |
| Place:販路 | 正規取扱店、地酒専門店、取扱店通販など |
| Promotion:情報発信 | 亀の尾復活、自家湧水、伝統技術、文化との関係、熟成の価値 |
㉒ ターゲット
商品特性から、次の成人飲用者との親和性が高い。
- 食中酒層:柔らかな旨味と透明感を料理に合わせたい人。
- 原料探求層:亀の尾や米づくりの背景を重視する人。
- 上質・贈答層:酒質と物語の双方を持つ酒を選ぶ人。
- 熟成酒層:時間による味わいの変化を楽しみたい人。
㉓ ブランドコピー・見せ方
米をよみがえらせ、土地の味を未来へ。
和島の水と田んぼ、受け継ぐ手仕事。
清泉の一杯に、米づくりからの時間が息づく。
本稿独自のブランドコピー。
㉔ この酒蔵をどう見せるべきか・最終評価
㉕ 最終評価
◎=明確な強み/○=取り組みを確認/△=根拠・展開が限定的/―=判断材料不足
公開情報に基づく定性的評価。財務格付けや他社との順位ではなく、「―」も能力の不存在を意味しない。
| 評価軸 | 評価 | 根拠・判断 |
|---|---|---|
| 歴史性 | ◎ | 1833年創業と世代継承 |
| 地域性 | ◎ | 和島の水源・農業との結びつき |
| 山田錦力 | ○ | 大吟醸等での使用を確認 |
| 原料品質 | ◎ | 栽培と原料処理への取り組み |
| 契約農家力 | ○ | 生産組合・農家との連携 |
| 土壌研究力 | ― | 独自研究の詳細は未確認 |
| テロワール力 | ◎ | 自家湧水と地域の米づくり |
| 酒米復活力 | ◎ | 亀の尾の復活栽培と商品化 |
| 酒米開発力 | ○ | 増殖・栽培実績。独自育種とは区別 |
| 吟醸技術力 | ◎ | 吟醸系商品と伝統工程 |
| 国際評価力 | ◎ | 三年熟成の海外専門媒体での評価 |
| プレミアム力 | ◎ | 亀の翁と熟成商品 |
| 生酒力 | ○ | 亀の王などの季節生酒 |
| 熟成酒力 | ◎ | 三年熟成・秘蔵酒の展開 |
| 商品開発力 | ○ | 米・熟成・季節による商品構成 |
| 食中酒力 | ◎ | 柔らかな旨味と酸の調和 |
| 直販力 | ― | 現行の直販体制・規模は未確認 |
| 観光体験力 | △ | 見学・試飲は実施していない |
| 海外適性 | ○ | 海外評価を持つ。輸出規模は未確認 |
| ブランド独自性 | ◎ | 原料復活・酒質・文化の結びつき |
| 成長可能性 | ○ | 原料・食中酒・熟成の価値に展開余地 |
㉖ 最終結論
久須美酒造は、酒米の復活という行動を、酒質と地域文化の価値へ育ててきた企業である。
清泉の日常性と、亀の翁の原料・熟成価値が共存し、酒販店を通じて飲む人との関係を築いている。
今後の評価を左右するのは、栽培と技術を次世代へつなぎながら、物語を知らない人にも「また飲みたい」と感じてもらえる接点を増やせるかという点である。
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久須美酒造 |
名水と米づくりを礎に、清らかな旨味の「清泉」を醸す蔵。 |


