田辺酒造(酒蔵ガイド)
― 九頭竜川の良水と永平寺の寒気を生かし、和釜・手造り麹・全量木槽搾りで「越前岬」を醸す1899年創業の小さな伝統酒蔵。 ―

① 一行定義
田辺酒造は、福井県永平寺町松岡で「越前岬」を醸す、1899年創業・九頭竜川水系・寒仕込み・和釜蒸し・手造り麹・全量木槽搾り・蔵元杜氏・芳醇旨口を強みとする、昔ながらの手仕事を守る小規模酒蔵。
② ブランド要約
所在地: 福井県吉田郡永平寺町松岡芝原2丁目24
創業: 明治32年・1899年
代表者: 田辺邦明
蔵元杜氏: 田邊丈路
代表ブランド: 越前岬
別銘柄: 越前菊水・優勝
地域: 永平寺町・松岡・九頭竜川流域
水: 白山水系・九頭竜川周辺の良水
主要酒米: 山田錦・五百万石・さかほまれ・九頭竜など
仕込み: 11月〜冬季中心の寒仕込み
製法: 和釜蒸し・手造り麹・全量木槽搾り
特徴: 小規模・手仕事・低温熟成・地元食中酒
👉 “効率ではなく、手間をかけること自体を品質に変える蔵。”
田辺酒造は1899年創業。白山に源を発する九頭竜川が流れる永平寺町松岡で、冬の寒さを利用した寒仕込みを続けている。代表銘柄「越前岬」は、福井を代表する景勝地・越前岬に由来する。
蔵の最大の特徴は、現在も
和釜で米を蒸す
→ 手で麹を造る
→ 酒袋へ醪を詰める
→ 木槽へ積む
→ ゆっくり搾る
という昔ながらの工程を重視していること。
公式自身が、派手さを求めない**「素の酒造り」**と表現している。
③ 味ポジション
香り :★★★☆☆〜★★★★☆
甘味 :★★★☆☆
旨味 :★★★★★
透明感 :★★★★☆
キレ :★★★★☆〜★★★★★
コク :★★★★☆
👉 “柔らかな旨味と丸みを持ちながら、後口は切れる芳醇食中酒型。”
田辺酒造の基本酒質は、極端な淡麗でも、極端な濃醇でもない。
日本酒造組合中央会では「越前岬」を、
切れの良い芳醇旨口
と紹介している。
また「特別純米 五百万石」は、木槽で約2日半かけてゆっくり搾ることで、
円やかな旨味
+柔らかな口当たり
+やや辛口の後味
を作る。
したがって基本構造は、
米の旨味
+柔らかさ
+穏やかな香り
+程よい酸
+後口のキレ
である。
④ 強み
① 1899年創業、125年以上の歴史
② 九頭竜川流域という豊かな水環境
③ 冬季中心の寒仕込み
④ 昔ながらの和釜による米蒸し
⑤ 手造りによる麹造り
⑥ 全量を木槽搾りする極めて手間のかかる製法
⑦ 蔵元杜氏・田邊丈路による一貫した酒造り
⑧ 永平寺町産五百万石・復活米九頭竜の活用
⑨ 福井県独自酒米「さかほまれ」の商品化
⑩ さかほまれ+福井酵母+福井の水による“オール福井”純米大吟醸
⑪ 全米日本酒歓評会など海外評価実績
⑫ 金沢国税局新酒鑑評会で福井県首席の実績
⑬ 令和6酒造年度全国新酒鑑評会入賞
⑭ 酒蔵見学・試飲・角打ちまで体験可能
👉 “設備を最新化するのではなく、古い道具を使い切ることで個性を作る。”
田辺酒造で特に重要なのは、全量木槽搾り。
機械的に強い圧力をかけるのではなく、酒袋へ醪を詰め、槽へ積み、時間をかけて搾る。
小規模だから可能な非常に労力の大きい工程であり、田辺酒造の酒質とブランドを決める最重要ポイントである。
さらに「越前岬 純米大吟醸 さかほまれ」は、福井県開発酒米「さかほまれ」、白山水系伏流水、福井酵母FK501、蔵元杜氏を組み合わせたオール福井型純米大吟醸。Kura Master 2024でも金賞を受賞している。
⑤ 向いている人
・福井、永平寺の地酒を飲みたい人
・昔ながらの酒造りに興味がある人
・槽搾りの日本酒を飲みたい人
・米の旨味が感じられる酒を好む人
・芳醇旨口が好きな人
・淡麗だけでは物足りない人
・純米酒を食事と合わせたい人
・冷酒からぬる燗まで楽しみたい人
・五百万石が好きな人
・山田錦の吟醸酒を楽しみたい人
・さかほまれに興味がある人
・地域の復活酒米に興味がある人
・小さな酒蔵の手仕事を評価する人
・酒蔵見学や角打ちを楽しみたい人
👉 “最新設備より、人の手と昔の道具が造る酒に価値を感じる人向け。”
特に田辺酒造は、酒の味だけでなく、
和釜
木槽
酒袋
寒仕込み
という製造現場そのものがブランド体験になる。
⑥ 向かない人
・超華やかな吟醸香だけを最優先する人
・非常に軽い低アルコール酒だけを求める人
・最新設備型のモダン酒だけを好む人
・大量生産でどこでも買える酒を求める人
・超甘口だけを好む人
・極端に淡麗な酒だけを求める人
・大型テーマパーク型酒蔵を期待する人
👉 “派手さより、手造り・旨味・食中性・地域性を評価する人向け。”
ただし季節酒には「中取り生原酒」「活性にごり」「Sun Rise」など、かなり現代的でフレッシュな商品も存在する。
そのため、
伝統製法=古い味
ではない点は重要である。
⑦ 商品カテゴリ
■ 越前岬 大吟醸雫酒「吟の雫」
兵庫県産山田錦を高度精米し、酒袋から自然に滴る雫を集める高級大吟醸。
田辺酒造の鑑評会酒・プレミアム領域を象徴する商品。
👉 “木槽・袋搾り技術を最高級酒まで突き詰めた一本。”
■ 長期熟成大吟醸「福福」
兵庫県特A地区産山田錦を使用。
袋吊りで採った良質部分を低温で3年以上熟成。
年間約500本限定。
「福井」と「幸福」の二つの「福」を掛け合わせた名称を持つ。
👉 “田辺酒造の熟成・贈答・最高級領域を担う酒。”
■ 越前岬 大吟醸
山田錦を使う上位酒。
香りを前面に出しすぎず、田辺酒造らしい旨味と上品さを両立する。
■ 越前岬 純米大吟醸
福井県産酒米などを用い、柔らかな吟醸香と上品な旨味を持つ純米大吟醸。
福井県の公式資料では、
やや辛口
+やや濃醇
+柔らかな吟醸香
+すっきりした味わい
として紹介されている。
■ 純米大吟醸 さかほまれ
福井県独自酒米「さかほまれ」を全量使用。
米:さかほまれ
水:白山水系伏流水
酵母:福井酵母FK501
人:蔵元杜氏
という「オール福井」の設計。
派手すぎない上品な香り、柔らかな旨味と食中性を持つ。
Kura Master 2024金賞。
■ 純米吟醸 雪舟
越前岬を代表する純米吟醸の一つ。
日常より一段上の食中酒としてブランドの中核を担う。
■ 純米吟醸 山田錦
山田錦の柔らかな旨味と吟醸香を楽しむ純米吟醸。
■ 純米吟醸原酒 斗瓶取り
通常酒より選別度を高めた原酒タイプ。
旨味・厚みをより明確に楽しむ商品。
■ 特別純米 五百万石
永平寺町周辺で契約栽培された五百万石を用いる代表的食中酒。
木槽で約2日半かけて搾り、
円やか
+旨味
+やや辛口
という田辺酒造らしい酒質を表現する。
👉 “越前岬を初めて飲むなら、蔵の製法を最も理解しやすい一本。”
■ 槽搾り純米 復活米「九頭竜」
永平寺町産の希少な復活酒米「九頭竜」を使用。
地域の米づくりと木槽搾りを直接結びつけるテロワール型商品。
■ Honami 無濾過原酒
無濾過・原酒という現代的な方向性を持つ商品。
古式製法の蔵でありながら、酒質表現の幅を広げるシリーズ。
■ 超辛口 シュタルク・カイザー
「越前岬」の中でも超辛口側を担う商品。
クラシックなブランドの中に、明快な辛口ニーズへの入口を作る。
■ 季節限定酒
初槽
永平寺町産「九頭竜」を使う槽搾り純米吟醸無濾過生原酒。
芳醇な米の旨味と酸を持ち、寒ブリとの相性も高い。
中取り生原酒
搾りの良質部分だけを瓶詰め。
熟した桃を思わせる甘味と旨味を特徴とする人気季節商品。
Sun Rise
五百万石を使う夏季限定純米吟醸。
穏やかなメロン香と爽やかな酸を特徴とする。
活性にごり
天然ガス感を生かす辛口の純米吟醸生原酒。
👉 “古式の蔵でありながら、生原酒・活性にごり・夏酒まで展開する柔軟さを持つ。”
⑧ 飲み方
冷酒 :◎◎
常温 :◎◎
ぬる燗 :◎◎
熱燗 :○〜◎
ロック :○〜◎ ※生原酒
ワイングラス:◎
食中酒 :◎◎
👉 純米吟醸・大吟醸は冷酒、槽搾り純米は常温〜ぬる燗。生原酒は冷酒・ロックも面白い。
■ 料理との合わせ方
吟の雫
→ 越前蟹、甘海老、白身魚、会席料理
福福
→ 蟹、鴨、上質な肉料理、熟成チーズ
さかほまれ
→ 刺身、白身魚、精進料理、季節野菜
雪舟
→ 寿司、刺身、焼魚、天ぷら
特別純米 五百万石
→ 焼鯖、煮魚、蕎麦、鍋、油揚げ
復活米 九頭竜
→ 鮎、山菜、川魚、郷土料理
初槽
→ 寒ブリ、刺身、鍋
Sun Rise
→ 鮎の塩焼き、夏野菜、魚介
中取り生原酒
→ チーズ、肉料理、濃い味の料理
福井の料理なら、
越前蟹
甘海老
寒ブリ
鯖
へしこ
越前そば
油揚げ
鮎
山菜
精進料理
と非常に合わせやすい。
👉 “越前の食材に、槽搾りの柔らかな旨味を重ねる。”
これが田辺酒造を理解する最も自然な飲み方である。
⑨ 位置づけ
クラシック ← ◎ → ○ モダン
穏やか ← ◎ → ○ 華やか
淡麗 ← ○ → ◎ 旨味
辛口 ← ◎ → ○ 甘旨口
軽快 ← ○ → ◎ コク
機械化 ← ○ → ◎ 手仕事
大量生産 ← ○ → ◎ 少量生産
地域酒 ← ◎ → ○ 全国・海外評価
👉 “和釜・手造り麹・木槽搾りという古式技法を、現在の品質と地域性へつなぐ永平寺の手仕事酒蔵。”
直前に整理した黒龍酒造と比較すると、
黒龍酒造・黒龍/九頭龍
=「大吟醸・低温熟成・冷酒文化・高級化・革新」
に対して、
田辺酒造・越前岬
=「寒仕込み・和釜・手造り麹・全量木槽搾り・少量手造り」
と明確に分かれる。
同じ永平寺町の水を使いながら、方向はほぼ対照的。
田辺酒造のブランド構造は、
白山水系
→ 九頭竜川
→ 永平寺の冬
→ 寒仕込み
→ 和釜
→ 手造り麹
→ 木槽搾り
→ 柔らかな旨味
→ 越前岬
という非常に分かりやすいものになっている。
さらに、
さかほまれ
九頭竜
五百万石
と地域酒米を使い分けることで、
古式製法 × 福井テロワール
という現代的な価値まで生み出している。
■ コピー
メイン
「手で蒸し、手で育て、槽で待つ。永平寺『越前岬』。」
サブ
福井県、永平寺。
白山の雪が、
大地へ溶ける。
その水は、
九頭竜川へ集まり、
松岡の町を潤す。
1899年。
この水のそばで、
田辺酒造の酒造りが始まった。
酒の名は、
越前岬。
冬。
蔵の中では、
昔ながらの道具が動き始める。
和釜に水を張る。
蒸気を上げる。
米を蒸す。
麹を手で育てる。
醪ができれば、
酒袋へ一枚ずつ詰める。
そして、
木の槽へ積む。
強く押さない。
急がない。
酒が落ちるのを、
待つ。
一日。
二日。
時間をかけて、
ゆっくり搾る。
効率はよくない。
大量にも造れない。
けれど、
その時間が、
酒を柔らかくする。
五百万石。
山田錦。
さかほまれ。
そして、
復活した九頭竜。
福井の米を、
福井の水で醸す。
吟の雫。
福福。
雪舟。
初槽。
一つひとつ、
表情は違う。
けれど、
造りの中心は変わらない。
手をかけること。
田辺酒造は、
昔の道具を残している蔵ではない。
昔の道具を今も使い、
今の酒を造っている蔵である。
■ 結論
1899年、永平寺町松岡で始まった田辺酒造は、九頭竜川の清流と冬の寒気を抱き、「越前岬」を醸し続けてきた。
和釜で米を蒸し、手で麹を育て、寒仕込みの醪を木槽でゆっくり搾る――消えゆく工程を、今も酒の芯に残している。
さかほまれ、九頭竜、無濾過生原酒、活性にごり、夏酒へと歩みを広げながら、手間そのものを技に変え、昔の造りで現在の福井を映している。
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田辺酒造は、福井県永平寺町松岡で「越前岬」を醸す、1899年創業・九頭竜川水系・寒仕込み・和釜蒸し・手造り麹・全量木槽搾り・蔵元杜氏・芳醇旨口を強みとする、昔ながらの手仕事を守る小規模酒蔵。 |

